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スッと鞘から刀を抜き、政宗は輝きを放つ刀身をその隻眼で見つめた。

「その刀はオレの家に代々伝わる宝刀。銘を皇龍」

「皇龍!?」

小十郎も驚いた表情で政宗の手にある二振りの刀に目をやる。

「そして彰吾の持つ刀が…」

遊士は彰吾に目配せをして言葉を切る。

「覇龍です。俺の家に代々伝わる宝刀です」

腰に差している刀に手を置き、彰吾はそう言った。

「皇龍に覇龍…。本当に何者だお前等」

どちらの刀もこの世に一つしかない、自分達しか持ち得ない業物。
キンッ、と鯉口を鳴らして刀を鞘に納めた政宗は一段と低くなった声音で言う。
遊士は三つの鋭い視線を真っ向から受け止め、自分の、恐らく当たっているだろう推測を口にした。

「オレ達はこの時代の人間じゃない。オレ達は、この時より遥か先の未来から来た」

耳を疑うような遊士の突飛な発言に政宗は手にある皇龍に視線を落とし、一拍置いて顔を上げた。

「Ok、信じよう。アンタは未来から来た」

「なっ、信じるのですか政宗様!」

「Yes。現に俺の手にはこの世に一つしか存在しないはずの皇龍がある。ソイツ、彰吾とか言ったか?ソイツも覇龍を持ってやがるし信じないわけにはいかねぇ」

そう言えば遊士はどこかホッとしたような笑みを浮かべ、つい口を滑らせた。

「さっすがオレの御先祖様!誰かさんと違って話が分かるねぇ」

「「あ?」」

驚いた顔をして聞き返してきた御先祖様組と、自らシリアスな雰囲気をぶち壊した遊士。その隣で彰吾はやっちまった的な表情を浮かべた。

「遊士様。常々俺が注意していた事覚えてお出でですか?」

「急に何だよ。今はそれどころじゃ…」

「いいえ。聞いていただかねばなりません。まず、物事は順序だてて話なさい。いきなり一から十に跳んでしまうと相手の方が混乱してしまいます」

このように、と困惑した表情を浮かべる小十郎と難しい顔をして考え込む政宗の事を指す。

「Oh, I'm sorry!」

「No, it is all right。って、お前異国語話せんのか!?」(いや、大丈夫だ)

遊士が軽いノリで英語で謝罪すると、政宗は違うところに食いついてきた。
鋭かった隻眼を好奇心で輝かせて。
側でその様子を見ていた彰吾はひっそりと心の内でさすが遊士様の御先祖様。その反応遊士様とそっくりだと呟いた。

「A little...」(少しだけ)

「oh〜!そりゃいい。で、俺がアンタの先祖だって?なら、アンタは俺の子孫だとでも言うのか?」

だったらおもしれぇ、と唇を歪ませ愉しそうに笑みを刻んだ政宗に遊士は胸を張って堂々とYes!と、頷いた。

「彰吾、御先祖様には通じたぞ!」

そして、遊士は隣に立つ彰吾を見上げて得意気にニィッと笑った。
それは貴女の御先祖様だからでしょう、と失礼な言葉が口をついて出そうになったのを飲み込んで彰吾はそうですね、と淡々と返した。
それから彰吾は半信半疑で遊士の説明を受け止めているであろう小十郎に向けて口を開いた。

「片倉様が俺達を信じられないというのは解ります。俺だってまだ半信半疑ですし、俺が貴方と同じ立場だったらきっと俺も同じ事をします」

「…………」

隣で意気投合し始めた主君を横目で見やり彰吾は続ける。

「信じて頂けないのは当然。それは別に構いません。ですが、だからといって遊士様を傷つけようものなら例え御先祖様でも俺は容赦しませんから」

視線を小十郎に戻し、彰吾は笑みを浮かべて言った。
しかし、その目は真剣そのもの、笑ってなどいなかった。
その瞳には主を、自分の命をかけても守るという強い決意が宿っている。
小十郎は彰吾の眼差しに自分と似通った部分を感じとり、フッとその口元を緩めた。

「決めるのは俺じゃねぇ。政宗様だ」

隣で年相応の表情を浮かべ、遊士と会話を交わしている政宗を小十郎は弟を見守る兄のような顔で見つめた。




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